10.鈍すぎる!

「あの、その、俺と、……、付き合ってくれないか!」
 目の前の知らない男が顔を真っ赤にして言う。熱でもあるんだろうか。
「いいけどなんで」
 そもそもおれに今からどこへ付き合えと、どこに一緒に行こうというんだろう?
「な、なんでって」
「それはだな、妹よ」
 横にいつの間にか兄貴が立っていた。
 兄貴の七不思議の二だ。俺はとっくに慣れたが、音も気配もなく突然表れること
ができる。
 忍者みたいだが慣れない人間には心臓に悪い。目の前の男子生徒もうろたえて
いる。
「この先輩にはな。好きな人がいる」
「そ、そうなんだ」
 面白いくらいにぎこちなく何度も首を縦に振る。
「その恋人へのプレゼントをおまえに選んで欲しいそうだ」
「ち、ちが……」
 なんでこの人が先輩って知ってるんだ?
 兄貴の知り合いなのか?
 まあそれはいいとして、おれセンスないからな。プレゼントを選んでくれと言われ
ても自信がない。
 服だってほとんど兄貴が選んでるくらいだし。もちろんおれの好みの範囲で。
「シンプルでかっこいいプレゼントが良いらしい」
 なるほど。そういうヤツならホンの少しは自信がある。それで兄貴が俺を紹介し
たのか。
 けど恋人がいるのに一応女のおれと出かけてその人に悪くないか?
「俺も行くから細かいことは気にするな」
 それなら大丈夫か。ところでいつ行くんだろうか。これからとか言ってたから、今
日の放課後だろうか。
「これから、といいたいがやっぱ土曜日にしよう。時間とか細かいことは後で俺に連絡
してもらえればいいし」
 そうか。なら土曜はあけとかないとな。

 土曜は先輩に急用ができたとかで、結局兄貴と二人で遊びに出かけた。


  妹は鈍いからはっきり言わないと。
 今からじゃなくて今日からって言えば良かったのに。
 その場で抱きしめるとか、キスするとか、押し倒すとか。
 ま、そんなことしたらぶん殴ってたけど。
 ハハハハ!
 妹に恋人なんぞまだ早い!

前へ  目次  次へ