14.昆虫標本

「なあ」
「……」
「おい」
 不思議だ。なんか呼び声がするような。
「親友の俺に、この仕打ちはどうかと思わないか?」
 ぎゅっと右足に体重をさらにかける。
 汚物を踏んだ嫌な感触が足の裏に伝わってくる。
「う……こ、この体勢はどう考えても俺の人権を侵害してないか?」
 セクハラ野郎に人権などない。
「ちょっとした出来心だったんだよ、な?」
 ほう?
「いや、なに、ほら、可愛い子とスキンシップしたいってのは男の願望というか」

 悪友が妹に抱きついたのを無反応の妹に変わって突き飛ばし、昆虫標本のように足で

床に縫いつける。妹の親友も慣れたもので横に立って微笑んでいる。
 
 もちろんその顔が引きつっているのは気のせいだ。
「今日もいい天気だなあ」
 空は晴れ渡り、今日は日本特有の湿気ある夏日だ。
「ダレカタスケテ……」
「兄貴、のどかわいた」
「こいつの血でも飲むか?」
「……まずそう」
 一瞬本気で考えなかったか?

「鬼畜だ……」
「床がなんかしゃべってるなあ?」
「……ハイワタシハユカデス。オモウゾンブンフンデクダサイ(泣)」

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