13.夏祭り

靴を履き、昇降口からでたところで妹とその親友が歩いているのを見つけた。
 久々に晴れた今日は湿気が少なく、乾いているので暑さのわりに不快ではない。
 その中を汗が吹き出ない程度に速く歩き二人に追いつく。
 声をかけ尋ねる。
「俺も一緒に帰っていい?」
 立ち止まり振り返った二人の顔を見比べながらお許しを請う。
「私は別にいいですけど」
「……」
 にこやかに返してくれた親友にたいし、妹は相変わらずの無表情だった。
 ――お兄ちゃんを無視しないでくれ!というのは冗談で、こいつの無反応は肯定という
ことだ。
「じゃ行こ――」
「俺だけ仲間はずれにするなあ!!」
「きゃっ」
「うるさい」
「ぐっ」
 突然大声を上げた悪友を速攻で蹴り飛ばす。
 しかしいつものことだが、……いつものことだからかもしれないが、蹴られてもまるで答
えた様子はない。
「しかし兄妹そろって面白みのない反応だな。たまには驚いてくれよ」
 そんな意味不明な要求すらしてくる。驚いたのは妹の親友だけだった。
「そんな義務は、ない」
 妹がぽつりともらす。
「そう、そのとおり。いたずらに騒げば変態を喜ばすだけだ」
「なるほど」
 嬉しいことに妹も同意してくれる。
「というわけで変態を置いて逃げよう!」
 二人の女の子の肩を抱き走り出す。
「ちょ、ちょっとお兄さん!」
「……」
「気にしない気にしない」
「誰が変態だ!おい!」

 女の子二人と肩を抱いた格好で速く走れるわけもなく、あっさりと捕まってしまった。
 結局俺たちは四人で閑散とした商店街を歩いていた。
「たく、女の子に囲まれた下校を邪魔しやがって」
 片方が実の妹ということは気にしない。可愛いことには違いないのだ。
「親友なんだから少しくらいは幸せ分けてくれよ」
「誰が親友だ!お前なんか悪だ、悪!」
 その鼻先を指さし言いきってやる。
「悪友かよ!なんか悪いことしてるみたいじゃんか!」
「友がつくなんて何時いった!?悪一文字だお前は!」
「ひでえ!お義兄ちゃんがイジめる〜!」
 急に何を言い出すかと思えば、悪友はいきなり妹に抱きつきやがった。
 殺。
「……」
 あまりのテンポに妹の親友は驚いているが、くっつかれている当の本人はまるで反応が
ない。それでも引き剥がそうと手をのばす。
「ナツマツリ」
 関係ないことをいきなり呟く。
 さすが我が妹といったところか。
 その視線の先には祭りを告知するポスターがあった。
 会話をやめ、注意してみれば高いアーケードの天井からも多くの飾りがつるされてい

た。
「そういえばもうそんな季節だっけ」
 夏祭りのときばかりは、いつも閑散とした商店街が信じられないほど熱気にあふれるの
だ。
「今日にでも来るか?」
 外見から感情を伺うことはできないが、少し思案してから親友の方に顔を向ける。
「私は今日ひまだから大丈夫よ」
「じゃあ……」
「はいはいおれもおれも!!」
 予想通り悪友も参加をうるさいほどに表明する。
「まあ、別におまえも一緒でかまわない、が」
「が?」
「いつまでくっついてやがるこの糞野郎!!」
 蹴り飛ばされた悪友はお星さまになりましたとさ。
 めでたしめでたし。
「暑苦しかった」
 ……だったらそう言えよ。

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