第17話 闇会(YAMIE)
山の中腹に夜空へとそびえる堅牢な城。外的の侵入を防ぐ塀は高く、見張りの塔はなお高い。かつては蛮族と呼ばれた民族を監視し、戦闘の際に重要な拠点となった。が、今となっては塀は蔦と苔に覆われ、多くの建造物は瓦礫の山と化している。
近くには街はおろか小さな村もなく、かつて存在した道は長い年月によって木々にふさがれてしまっている。無論この城に近づこうとする人間がいるはずもない。
そして、獣ですらめったにこの城に近づくことはなかった。
理由はその場に漂う異質な気配のせい。
城よりもむしろ砦と言うべき建物だが、その内部には謁見の間のような広場があった。
奧の三段ばかり高くなった場所に重なる年月にも朽ちる様子のない豪奢な椅子がおいてある。
そして広間の中央には何故か巨大な円卓があった。椅子の数は二十五。
もし今、小さな窓から差し込む星明かり以上の光があったなら、その空気の一部分が陽炎のように揺らめくのがわかるだろう。
やがて一人の男が現れると、それに呼応するかのようにいくつも空気が揺らめき一人、また一人と姿を現した。
椅子に座ったものの一人が口を開く。
部屋の風景を暴くには星明かりにはあまりにも弱い。
幾人いるかわからぬ人影は足音もたてず席に着く。
部屋は暗く、彼らの動作など人には見ることができないだろう。
ただ闇を震わす声が聞こえるだけだ。
「No.VIが消滅した」
「彼ほどの力を持ってしてもやはりあの死神には勝てぬか」
「絶対者、と呼ばれるだけあると言うことか。我らの王は」
「不老不死と呼ばれる吸血鬼のそれも所詮はかりそめにすぎぬ」
「No.VIも王の出来の悪い模造品でしかない」
「だがそれと酷似した方法で不死を遂げようとする者がいた。いや、いる、といった方がよいな」
「彼か」
「それで協力を要請してきおった。見返りは可逆的〈接続〉の術」
「要請の内容は王への攻撃。それも王が〈世界〉と〈接続〉を完全にするほどのだ」
「微妙だ。餌は悪くない。しかし彼とNo.VIはその方面の第一人者だったが、本気になった王と敵対してはこちらの命が危うい。王と敵対しても生き残れそうな者はここにいる我らの中にはおらぬ」
「詮無きことだが一度くらい二十五すべて埋まるのを見てみたいものよ」
「所在不明のものはともかく、〈真魔〉などこの度の知らせをやった使い魔を殺しおった」
「小生意気な若輩者を懲らしめようか」
「ちょうど最近退屈しておった」
「あの愚かな気高き者をなぶるのも一興か」
「それより協力のことはいかがする」
「せずとも何ら不利益はない」
「確かに、だが私が行こう」
「No.XX」
「いま私が研究しているものにその術が必要なのだよ。王はいま枷をはめていると聞いたしな。足手まといがいれば王もそれだけ本気になろう」
「ほう。そんな情報どこから仕入れた」
「自ら手の内をさらす馬鹿もおるまい。少なくとも我らの内にはな」
「違いない」
それから二言三言数人の間で会話があったが、やがて人影は消えていき再び静寂が暗い室内を支配した。